それで第1の転機と言えば、親父が死んでガラッと環境が変わったこと。
神戸の下町の新開地って東京の浅草みたいな所。そこで親父は電器屋さんと写真館をやっていたんですが、写真館は婚礼とか七五三とかの時以外は暇なんですよ。電器屋のほうはお母ちゃんにまかして、毎日のように僕を肩車して、僕は親父の頭をこう抱えて、新開地を歩くわけです。
そこには劇場がいっぱいあって、森川信さんの喜劇とかをやってる。そこへ親父は顔パスで入って行って、僕を楽屋に置いて、その時暇な女優さんを誘ってお茶飲みに行ったりしてしまう。
こっちは「巡礼お鶴」(『傾城阿波の鳴門』)の子役に出されて、「かかさんの名は」、ほんとは「お弓」なのにわざと「お鶴と申します」って間違えてみせたりすると、どっと受けておひねりやお菓子が飛んで来る。幼稚園行くよりこっちのほうがずっと楽しかった。
で、次々に弟や妹が生まれて、幸せまっ只中の時、昭和15年のクリスマスの日に親父が伝染病の腸チフスにかかって隔離されて、翌年の元日に亡くなってしまうんです。
それで親戚が会議して、僕は一番口うるさい伯父夫婦の家に行くことになって、環境がガラッと変わりましたね。