演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第41回は喜劇俳優の大村崑さん。喜劇役者になろうと思った理由は、人の笑顔を見るのが好きだからだそうで――。(撮影:岡本隆史)
幼稚園に行くより楽しかった
「崑ちゃん」の愛称で多くの人に親しまれているコメディアンの大村崑さんは、93歳。今もすこぶる元気で活躍中。つい最近も松尾芸能賞の功労賞を受け、ホテル大広間の正面ステージに上がる階段を、足取りも軽く上ってみせた。
「携帯電話の友だちの番号、どこを押してもだぁれも出ない。93にもなってこんな立派な賞をいただいて、これほど幸せな喜劇役者はどこにもない、思いますぅ」と挨拶。満場の拍手を受けた。
崑さんが世に出たのは、『やりくりアパート』『番頭はんと丁稚どん』『頓馬天狗』など一連のテレビドラマと、大塚製薬「オロナミンC」のコマーシャルで全国的に名を知られたことにある。でも、長い人気の謂れは、何と言ってもあの善意に満ちた満面の笑みに接すると、誰もがほっと幸せな気分になるからではないだろうか。
――あぁ、笑顔ね。僕が喜劇役者になろうと思ったのは、人の笑顔を見るのが好きだからなんです。
人間、誰でも笑うといい顔になりますよ。あの横綱・豊昇龍だって(笑)、ちょっと怖い顔してるけど、笑顔が可愛い。僕は何度か食事してるけど、日本人以上に行儀がよくて、気を使う人ですね。