「価格は必ず戻る」

21年5月中旬、機は熟す。

米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が、同社の自動車販売で仮想通貨のビットコインによる決済を停止するとツイッター(現X)で表明。間もなく、ビットコインの相場が暴落した。

『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(著:日本経済新聞「揺れた天秤」取材班/日経BP)

「本質的な価値は損なわれていないから価格は必ず戻る。絶好のタイミングだ」。男の動きは速かった。すぐに子会社の資金約168億円相当を自身の管理する別の米銀口座に不正送金。そのまま全額をビットコインに交換した。

あまりに巨額だったからか、上司は当日のうちに不審な資金移動に気付いた。会社による調査を経て、21年11月、男は詐欺容疑で逮捕された。流出額はソニー生命のその年度の経常利益(約536億円)の3割超に及んだ。保険業法に基づいて金融庁が経緯の報告を求める事態に至った。