「大きな金を動かしたかった」
事件を起こした男は米国で生まれ、中学2年まで日本で過ごした。その後、ハワイに移り、現地の高校を卒業。ハワイ大でファイナンスや金融財政政策を学んだ。投資にのめり込んだのはその頃からだ。
アルバイトでためた2千ドルを元手に、自ら企業分析して割安と考えた株を買い付けた。折しも、リーマン・ショックを受けて米連邦準備理事会(FRB)が大規模な金融緩和に踏み切った時期。就職で日本に帰国する頃までに、資金は2万5千ドルにまで増えていた。
13年に入社したソニー生命でも当初は集めた保険料を資産運用する部署に在籍し、各国の金利動向などをもとに外国債券への投資を担った。
プロとしての経験が投資熱を制御不能にさせたのかもしれない。「海外子会社に眠っているキャッシュを運用してリターンを生み、あわよくば利益の一部を自分のものにしようと思った」。被告人質問での落ち着いた口ぶりから、損失を計上する可能性をみじんも考慮していなかったことがうかがえた。
「会社に投資を提案する考えはなかったのか」。検察官が尋ねると、男は「考えたことはない」と言い切った。仮想通貨の投資は従来、日本では個人の短期マネーが中心とされてきた。「提案してもどうせ通らない。日本の保険会社ではまだ早計」と言葉を継いだ。
男の口座には犯行時、約1900万円の預金があった。「自分の金でやればよかったのでは。より大きなお金を動かしたかったのか」。解せない表情の裁判官に、男は「そういう思いがありました」と応じた。
投資が一定のリスクを伴うのは自明だ。東京証券取引所などの資料によると、個人株主は22年度に6982万人と10年で1.5倍に増えた。投資熱は若者や現役世代にも広がっているが、これだけ大きな「危険」を冒す投資家はそういないだろう。
