「この国で各地の地裁に起こされた民事訴訟は年間14万件、起訴された刑事事件は6万件。そのうちニュースとして報道されるのは、ごくごくわずかな一部にすぎません」と語るのは、日本経済新聞電子版「揺れた天秤~法廷から~」の取材班。そこで今回は、この大好評連載をまとめた書籍『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』より一部を抜粋し、<学びになるリーガル・ノンフィクション>をお届けします。
脳裏をよぎる「よこしまな考え」
2020年秋、ソニー生命で海外子会社の清算業務を担っていた男に1通の業務メールが届いた。
子会社の資金を日本国内に送金するための案内で、送金には自分と上司の「2重の認証」が必要と書かれていた。
男は上司になりすませれば巨額の資金を意のままに動かせることに気付き、「よこしまな考え」が脳裏をよぎった。
上司を装って自分のアドレスを登録。静かにタイミングを待った。