北村匠海の言葉に救われた

実は、映像作品は苦手なんです。やりがいはありますが、やればやるほど難しい。自分だけ作品で浮いているように感じます。若いころよりそう感じるのはかえって分かるようになってきたからかもしれません。声の仕事と俳優の仕事の相互作用は絶対ある。いろいろな仕事がすべてつながっていると、表現するものとして信じています。

やなせ先生の恩師役ということですごくプレッシャーが強かったですね。嵩役の北村匠海さんは、演技力がすごくて、撮影の合間にいろいろ聞いたらかなり努力をして役作りをしていると知りました。北村くんから「嵩は悩むシーンが多かったから、図案科は空気が違って楽しかった」と言ってくれたんです。いい雰囲気でできたことは、自分にとってすごく救いになりました。

嵩の友人で図案科の生徒でもある辛島健太郎役の高橋文哉君は、彼が主演したドラマ『仮面ライダーゼロワン』のナレーションを担当していたので、お会いしたことはなかったのですが、注目している俳優さんでした。役によって全く違うキャラクターになる。北村くんも高橋くんも2人とも素晴らしい俳優さんです。

美術学校での健太郎(演:高橋文哉)と嵩(演:北村匠海)と座間(演:山寺宏一)の場面写真
(『あんぱん』/(c)NHK)

嵩が卒業したら、もう座間先生の出番がないと思っていました。「まだ出ます」と言われたときはすごくうれしかったですね。出征が決まった嵩が挨拶にきて、戦争は反対だとはっきり語る非常に重要なシーンにまた座間先生が登場します。まさか、その後に松嶋菜々子さん演じる登美子さんとも会うことになるとは思いませんでしたが。松嶋さんとは一度共演したことがあるのですが、オーラがある方なので勝手に緊張していました。自分のセリフがたくさんあったらNGを出して大変なことになっていたかも、と思うくらいです。

目の前で繰り広げられる、嵩と登美子2人の親子の会話は印象的でした。母親が「あんたは戦争に向かない」と言っている。すごい話をしているな、どうやって聞いたらいいんだろうと思っていましたが、座間先生も同じように感じていたんだろうと思いますね。

登美子(演:松嶋菜々子)と嵩(演:北村匠海)と座間(演:山寺宏一)の場面写真
(『あんぱん』/(c)NHK)

座間先生はデッサンモデルの女性を誘うシーンもありましたが、登美子さんも気になったようで、嵩に「義理の息子にならないか」と尋ねます。登美子が去った後、カットがかかるまでアドリブを入れて演技をしたら、上手に匠海くんが返してくれてうれしかったです。多分アドリブ部分はカットされていると思いますが(笑)。