松太郎を抱く作家の井上荒野さん(撮影:帆刈一哉)
生まれて間もない時から育ててきた猫は、いまや20歳。その間に井上荒野さんは、両親の死を経験し、もう1匹を介護の末に看取りました。猫と過ごせる残り時間を意識して毎日を過ごしていると言います(構成=篠藤ゆり 撮影=帆刈一哉)

2時間おきにミルクをやって

わが家には、今年で20歳になる松太郎という名の雄猫がいます。昨年(2019年)8月までは雌猫の、つぶ子もいました。

松太郎がやってきたのは夫と結婚する前で、一緒に住み始めて1年くらいたった頃です。当時はまだ小説の仕事もあまりなく、貧乏でぼろアパートに住んでいましたが、ある日アパートの前から鳥の雛みたいな鳴き声が聞こえてきました。夫が見に行くと、目が開いたばかりの子猫が鳴いていたので、部屋に連れて帰ったのです。

獣医さんに世話の仕方を教わりましたが、綿棒で肛門を刺激して排泄させなくてはいけないし、ミルクは2時間おきにあげる必要があるし、けっこう大変。あまりに小さくて、すぐ死んでしまいそうで怖かったですね。

でも松太郎は順調に大きくなり、2年後、つぶ子が来ました。友だちの子どもが子猫を拾ってきたけれど、団地住まいなので飼うことができず、うちで引き取ることにしたのです。実家には常に猫がいたものの、自分の責任で面倒をみたのは、松とつぶが初めて。私たち夫婦に子どもはいませんが、2匹の面倒をみながら、子育てってこういうことかな、と思ったりもしました。

たまに私が夫にイライラしていると、察するのでしょうね。松太郎が近寄ってきて、「どうしたの?」と鼻を私にくっつけてくる。だから私も「ねえ、ひどいと思わない?」と、猫相手に夫の愚痴をこぼしています(笑)。あと、夫婦で気まずい空気になったら、お互いが猫に話しかける。そうしていると、いつの間にかぎくしゃくした雰囲気がなくなるんです。

夫は一時期、2匹の写真をせっせと撮っては台詞をつけて、「猫マンガ」を作り、製本した冊子をいろいろな人に配っていました。年賀状にも猫の写真を使っていましたし、私もつい人に写真を見せたり──2人とも、とんだ親バカですよね。(笑)