容姿のコンプレックスは性格を左右する
若いころ、私はひどい天然パーマに悩まされていた。おまけに地黒で背が高い。小学校でのあだ名は「麩菓子」「チリチリ」「コイサンマン」などだった。ひどい。子どもは正直で残酷だ。
自由奔放すぎる髪を最小限のサイズに抑えるため、三つ編みのおさげにしてスプレーで固めていた。触るたびポロポロと粉が出るので、肩のあたりにどう見てもフケにしか見えないケープの粉がついていないか常に気にしていた。10歳の私は中年のおじさん以上に肩付近に気を配っていたと思う。
誰といても相手が自分の容姿を笑っていないか気になって話どころじゃなかった。チリチリの髪、肌の黒さ、背の高さを誰の目にも触れたくなくて、いつも背中を猫背にしてできるだけ小さくなっていた。密かに想いを寄せていた山内くんの視界には絶対に入らないように気をつけた。
本当は三つ編みなんかにしたくない。風にサラサラと髪をなびかせて歩きたい。
生まれつき直毛の子が羨ましくて仕方なかった。
どれだけ何かを頑張ったところで見た目が全てを台無しにした。髪が直毛だったら、肌が白かったら、背が低かったら……。こんな遺伝子をよこした親を呪った。
中学生になって少しずつお小遣いを貯めて、ようやく縮毛矯正を受けることができた。
夢のようだった。鏡に映る自分のサラサラな髪をいつまでもうっとりと眺めていた。生まれ変わった気がしたし、なんでもできる気がしてすぐに山内くんに告白をした。「あんたのことよく知らないし。ごめん」とフラれた。
そりゃあそうだ。ろくに話したこともないやつが髪を直毛にして急に勢いづいて告白してきたって「知らんし」となるだろう。私からしたら大変身だが他の日本人にしたら直毛なんてのは別に普通のことだ。これでようやく普通なんだ。
容姿のコンプレックスは人間の性格を左右する。こんな見た目だからオシャレをしても恋をしても仕方がない。かわいそうだと思われる前に自虐ネタで周りを笑わせて「面白いヤツ」を演じるしかなかったのだ。元から髪が直毛だったら私はもっと素直で明るい性格だったかもしれない。
子どもの頃から日常にかわいい女の子の基準はしっかりあり、それに比べて自分は全然ダメで「ありのままでいい」なんて思えない気持ちがしっかりと根付いている。