追い詰められてスタートライン
こうしてグズグズと一人飲みデビューに踏み切れぬまま数年が経過したのだが、日頃の行いがよほど良かったのであろう、神は我を見放さなかった。
そうついに、その時が訪れたのだ!
……イヤ何のことはない、単にサラリーマン的な、切羽詰まった事情が発生しただけのことである。
きっかけは、当時勤めていた新聞社で、「地酒(日本酒)」をテーマにした連載記事を任されたことであった。
念のため言っておくが、「任された」といっても抜擢でもなんでもなく、社の業績低迷でリストラの嵐が吹き荒れる中、記事を書く人が減りすぎて、中間管理職という名の窓際族だった私に「どーせヒマだろ?」と白羽の矢が立ったのであった。
テーマが地酒だったのは上司が地酒好きだったゆえ。何ともいい加減なことだが、このいい加減なことがゆくゆくは私の人生を変えることになるのだから、世の中とは面白いものである。
で、まあ確かにヒマといえばヒマ。だが困ったことが一つ。私、酒はそこそこ飲むが、日本酒はほぼ飲んだことがなかった。
今でこそ日本酒はそれなりにメジャーになっているが、当時(約15年前)はほぼ見向きもされない存在だったのだ。
酒といえばビール、ワイン、焼酎。で、凡人である私も世間の人と同様、これらを喜んで飲んでいたのである。