毎晩のように日本酒を飲み歩くことに
なので、にわか仕込みで日本酒の勉強をせねばならなくなった。
早い話が毎晩のように日本酒を飲み歩くことになったのだ。
最初は何の問題もなかった。「日本酒好き」を自認する先輩や同僚を誘っては、雑誌で見つけた日本酒充実店へせっせと出かけた。
新聞社というところは酒好きが多いし、まして日本酒好きは「語りたがり」「教えたがり」が多いので、声をかければ付き合ってくれる人はいくらでもいた。
ところが、次第に雲行きが怪しくなってきたのである。
誘っても断られる。それもことごとく。なぜなんだーと思っていると、先輩がふと漏らした一言。
「お前と飲みに行くとウルサイんだよな……」。なぬっ、ウルサイですと?
……いやそうか、そういうことか。私の日本酒に関する知識が蓄積されるにつれ、私自身がいつの間にか「語りたがり」「教えたがり」になっていたのである。
それがどうも彼らのプライドを傷つけていたらしいのだ。ああ酒飲みは面倒くさい……。
※本稿は『一人飲みで生きていく』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
『一人飲みで生きていく』(著:稲垣えみ子/幻冬舎)
一人ふらりと出かけた街でふらりと店に入り、酒と肴を味わってリラックス。そんな「一人飲み」に憧れて挑んだ修行。数々の失敗の先に待っていたのは、なんとも楽しく自由な世界。まさか一人飲みで人生が開けるとは!――アフロえみ子と一緒に冒険し、お金では買えない、生きる上で一番大事なものを手に入れるスキルまで身につく、痛快エッセイ。