泰子 上手でしょ。毎朝自分で髪の毛、セットするの。今日はエプロンとおそろいの赤い髪飾りにしたのね。この飾りがわりと有名で、プレゼントにいただくから買ったことがなくて。翔子の引き出しにいっぱい、20個くらいだった?
翔子 (手を広げて)50。
泰子 あはは。何色が好きなんだっけ?
翔子 ピンク!
泰子 おしゃれになったんですよ。ねえ、今朝早起きして、ネイルしに行ったのよね。
翔子 ほら。(両手の爪を見せてにっこり)
泰子 そう、翔子の爪噛みの癖が、直ったんです。もう15年くらい、自分でも苦しんで、絆創膏を貼ってもやめられなかった。私の目の前ではしないんですけど、気がつくとかじってしまうのでいつも爪という爪がギザギザ。見ていて本当につらいものでした。それが今、こういうキラキラのネイルをして、毎日ぴっかぴかに輝いて働いている。
翔子は、「書道が好き」「楽しいです」って言いはしても、一切、つらいとか疲れたとかは聞いたことがありません。この子にはきっと特別な感性があって、母の私が悩むとか悲しむことが嫌なのね。
だから私、きれいな爪で楽しそうに働く娘を見ることができて、翔子が生まれてから40年間で今が一番幸せです。ね、翔ちゃん。この、赤にお星さまが入った爪も可愛いけど、次も決めてるんじゃない?
翔子 ブルー。ブルーがいい。
泰子 そうね。いろいろやりたいって言います。なんでも自分で考えてやっているのはすごい。翔子はひとり暮らしを始めてから、少しずつお金の仕組みもわかってきました。
数列には本当に弱かったんですけど、ここが開店した当初から、座席の位置と席番のB-1とかB-3を対応させて、「B-1、ブレンド、アールグレイ」って伝票に書いてオーダーを入れられたんです。すごいなと思って。
いざとなったら、現場で実践できる。ダウン症があっても、こうやってまだ成長し続けているんですよ。