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Cクンは「タカシはとってもいいことをしたね」と言うけどCクンと割り勘しただけのボクは途中から、たかられてると思ってたとは言えないまま「そうかな?」ともごもごしていた。寝る前にユースホステルが朝食付きだったことを思い出したCクンは「タカシ、明日の朝一緒に食堂に行こう」と誘ってくれた。食堂は9時00分で閉まるので、8時45分に行こうと決めて寝た。

ボクは8時30分に起きて準備、といっても食後にまた寝るつもりだったので、歯磨きをしてTシャツを着替えたぐらいだったけど、準備万端にして横のベッドでまだ眠るCクンを眺めていた。別に食堂に行かずこのままもう一度寝てもいい程度だったのでCクンを起こさずいたら9時00分にCクンが飛び起きて、ボクに謝りながら「食堂へ行こう!」と言い出した。

時間を過ぎてるので、ボクはもう間に合わないよ、と言ったけどCクンは「ボクが掛け合ってみるから」と言いながらボクを連れて食堂へ走った。

イスをテーブルの上にあげて床の掃除が始まった食堂でボクは無理だろうと思っていたけど、Cクンはベテランの女性スタッフさんにジョークを交えながら交渉していた。わからないけどそのスタッフさんは「まったくこのかわいい坊やったら〜」みたいな表情をした後に「ゆっくりはできないわ」みたいなことを言って掃除に戻られた。

Cクンはボクにウインクをしてトレーを渡してくれた。

2つのパンとバターとジャム。ハム、スライスしたチーズ、リンゴ1つとホットコーヒーをトレーにのせて席に着くとボクは熱々のコーヒーを軽くやけどしながら飲んでパンを食べてチーズを食べた。

目の前の席のCクンはコーヒーをゆっくりと飲みながらナイフを使ってパンをパカッと割り、ひとつにはバターとジャムを塗り、もうひとつのパンにもバターを塗りハムとチーズを挟んだ。その作業はいちいち優雅で一方ボクは熱々言いながらドタバタと完食して、Cクンが食べ終えるのを待っていた。

Cクンは大判の紙ナプキンに2つのサンドイッチを包むとリンゴを掴み、最後のコーヒーをゴクッと飲み干して「タカシ、公園に行こう!」と言った。

「外で食べるからタカシも。え! もう食べたの? 早いね! じゃぁ待たせてごめんね。でも付き合ってくれるよね?」とまたウインクをひとつ。

ボクは途中から掃除をしているスタッフさんに「急ぎますぅ〜」のようなアピールをしながら味わうことなくただ食べていた。せっかくチーズが美味しいと言われた季節だったのに、とにかく早く食べて「お待たせしてすみません!」とアピールすることに必死になっていただけだった。

しかもその「どうぞ」と言ってくれた優しいベテランスタッフさんはボクのそんなアピールを見てなかったと思う。ホコリが舞わないようにボクらがいるテーブルの離れたところを掃除してくれていたとびきり優しい人だった。「一度どうぞと言ったのだからどうぞ」って感じで優しい人だった。

なんだか、ものすごく恥ずかしくなって悲しくなったのを憶えている。

Cクンとボクは同じ場所で同じ食べ物を前にしていたのに、なんか、こう…まったく違う時間を過ごしていたのだ。とても恥ずかしくなった。