「ブッシブソク」の時代
次の日の朝、私が枕元に見つけたのは、それまでのプレゼントとは違って、可愛い包み紙ではなく、何かの古い包み紙をつかって、包装してあった。少し長くて四角い箱で、リボンよりは重かった。なんだか違う! それでもドキドキしながら、包みを開けると、中から出てきたのは、どぎつい色で、おかっぱの女の子の絵が描いてある羽子板だった。その羽子板はリンゴを入れる木箱か何かから作ったもののようで、ざらざらした手ざわりで、節の穴があいていた。
その粗悪な羽子板を手に持って、私は、(最近はサンタさんも、ものがないんだ)と考えていた。そして、(あ、ひょっとして、サンタクロースって、いないのかな)と思った。サンタクロースがいるのなら、せめて、当時の女の子の間で流行していた「くるくるクルミちゃん」の絵なんかがついた羽子板をくれるはずだもの。
でも、私は、サンタクロースがいないかもしれないことよりも、サンタさんも物資不足なんだ、ということのほうがショックだった。どこに行っても、「ブッシブソク」という言葉を聞かされる時代だった。けれど、サンタさんは、こことは全然ちがう、はるかに遠い場所から、おおぜいの子どもたちに、見たこともないようなプレゼントを運んでくれると信じていたのだ。
羽子板に描かれた女の子は、髪の毛にピンクの大きなリボンを結んでいた。きっと、母が、いろんなところを走り回って探してくれたんだと、やがて私にも想像できるようになった。