守られなくてもいい約束
次に伯父と伯母夫婦が来た時、私はそれとなく観察して、手ぶらのような気がしたが、さすがに私からは言えない。
すると、伯母は、
「あら、おみやげ忘れちゃったわ、ごめんなさい。いま、何か欲しいものある?」
と、やさしく聞いてくれた。私は、がっかりしていることが伝わらないように努力しながら、また、「ビーズの詰め合わせ!」と答えた。伯母は、「次に来る時に、持ってくるわ!」と言った。
そんなことが、何度か繰り返されるうちに、いよいよ戦争が激しくなって、ビーズどころではなくなってしまった。「ブッシブソク」の時代がやって来たのだ。
あれから、アッという間の気がするけど、もう80年もたった。ずいぶん前に、伯父も伯母も、いなくなってしまった。
でも、ある日、突然、ビーズを詰め合わせた箱が、私のもとへ届くのではないか、と、今でもふと思うことがある。
本当に、おみやげにもらっていたら、そんな会話をしたことは、とっくに忘れていたに違いないし、伯母の美しいおもかげも、ひょっとしたら、記憶から薄れていたかもしれない。ビーズを詰め合わせた箱があんなに欲しかったことだって、忘れたかもしれないし、その箱が突然、届くかも、なんて夢想することも、もちろんないだろう。守られなくてもいい約束だって、たまには、あるのだ。
※本稿は、『トットあした』(新潮社)の一部を再編集したものです。
『トットあした』(著:黒柳徹子/新潮社)
トットはあの人達からこんな言葉を受け取って、生きる支えにしてきた――。
向田邦子、渥美清、沢村貞子、永六輔、久米宏、飯沢匡、トモエ学園の小林校長、そして父……幼い頃から人生のさまざまな場面で、黒柳徹子さんが大切に受け取り、励まされてきた「24の名言」。
そんなかけがえのない言葉たちで新たに半生を辿り直した、待望の書下ろし長篇エッセイ!