初音ミクの誕生

2007年1月に、その後初音ミクの企画立案に携わる目黒久美子が入社しました。当時の目黒は短大を卒業したばかりで、面接で話をしたらアニメやその周辺のカルチャーに詳しかった。当時の僕は声優には疎く、買ってきた『声優グランプリ』という雑誌も袋に入ったまま社内の僕の部屋に置いてあるような状態でした。その『声優グランプリ』を見せて「こういうの、わかる?」と訊いたときも、目をキラキラさせていた。

佐々木は音楽や音、ロールプレイング・ゲームには詳しいのですが、アニメや声優、イラストレーターなどに詳しいわけではなかった。他にもその方面に詳しい社員は誰もいませんでした。でも、目黒の加入でそのピースが埋まった。そこで結果的に初音ミクの企画・開発をする人材が揃い、2007年の初頭から本格的にプロジェクトが動き出しました。

(写真提供:Photo AC)

まずは声優事務所に連絡を取りました。初音ミクの歌声に必要な「可愛らしさ」を求めて理想を追求した結果、300人を超える声優さんの声のサンプルから最もイメージに合ったのが藤田咲さんの声でした。

次にその声にふさわしいキャラクターのデザインに取り組みました。姿をイメージしやすいように「16歳の少女、身長158センチ、体重42キロ」というキャラクターの最低限のプロフィールを決めて、インターネットなどでイラストを発表していたイラストレーターのKEIさんにキャラクターデザインを依頼しました。

旧来の音楽ソフトウェアのユーザーにも、アイドルやアニメが好きな層にも、どちらにも受け入れてもらえるようなキャラクターにしたくて、デザインにはヤマハが開発したシンセサイザーの名機「DX7」のモチーフをリスペクトの気持ちを込めて盛り込むようお願いしました。言うなれば、シンセサイザーの擬人化です。もちろん、ヤマハにも許可を得ています。

KEIさんに依頼したときはまだ名前も決まっていない状態でしたが、試行錯誤を重ねる中でデザインの具体的な方向性や名前が決まり、青緑色髪のツインテールが特徴的な、いまの初音ミクとなりました。名前の由来は「未来からきた初めての音」です。プロフィールについてはさらに細かなストーリーを考えようとしたこともありましたが、それがかえって創作の幅を狭めると判断して最小限に止めました。