初音ミクを世に送り出す準備

そうして初音ミクの声と姿を形づくっていく一方で、当時はその企画・開発の様子を、自社の広報用のブログを通して随時発信するという取り組みも行っていました。つくっている段階から開発のプロセスをブログを通じて少しずつ明らかにすることで、期待を高められるんじゃないかという考えがあったからです。

誰も知らない状態で発売したとしても、待ってくれている人がいない。発売してから頑張って宣伝するよりも、つくっていく過程をブログで発信したほうがいいと考えました。

ブログの執筆を担当していたのは主に佐々木渉。たとえば声を収録してきましたとか、こんな感じのパッケージの絵になりますとか、そういう進捗状況を公開しながら開発を進めていきました。

すると、ブログに思った以上の反響があった。コメントやトラックバックがどんどん増えていった。それが数字に表れて、期待されているという事実が目に見えてわかるようになってきた。

初音ミクのイラストは、ソフトウェアの発売に先行して6月にはブログで公開しました。さらに、そのイラストはルールの範囲内なら誰でも使っていいことにしました。

2007年8月のソフトウェア発売前には、社員の何人かで世界最大規模の同人誌即売会「コミケ(コミックマーケット)」を視察しました。そうやって実際にキャラクターを使った同人文化にも触れて、その時点ではいずれコミケに出展してPRしようということも考えていた。

そういうふうにいろんなことを試しながら、初音ミクを世に送り出す準備をしていました。

※本稿は、『創作のミライ-「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

【関連記事】
藤井隆「欲しい超能力は断然《空を飛ぶ能力》で、クレーンに吊られた仕事には大興奮!実は予知能力・透視・瞬間移動は出来たことが…」
水木しげると松本零士。娘が語る巨匠の素顔「水木の娘として今後は生きるんだと、肝が据わったのが40歳頃。小学校の教員を辞めて、水木プロへ」
田舎暮らしYouTuber、50年前に祖父母が建てた母屋を1LDKに改築。1年かけて完成した新居で、最もお気に入りの場所は…

創作のミライ-「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』(著:伊藤博之/中央公論新社)

本書は伊藤氏の歩みをたどりながら、「ツクルを創る」「収穫モデル」「メタクリエイター」等々の経営哲学を紹介。

「ボカロ文化って何?」という読者でも、創作の根源的な意味を考えたり、AI時代を展望したりするヒント満載の一冊。