(写真提供:Photo AC)
日本発の音楽文化として、世界で人気のバーチャルシンガー「初音ミク」。その生みの親であるクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の代表取締役・伊藤博之さんは、初音ミクを「クリエイターにとっての音楽仲間のごとく、作品創りに寄り添い、想いをかたちにする存在」と言い表します。今回は、伊藤さんの著書『創作のミライ-「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。

歌声合成ソフトウェア事業における発想の転換

当社(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社)が手がけた最初の歌声合成ソフトウェアである「MEIKO」は2004年11月に発売しました。

当時からコンピュータでピアノやギターの音をシミュレーションするバーチャル・インストゥルメントという技術はありました。世にある楽器は大体そうしたシミュレーションが可能で、ソフトウェアとして販売されていました。

そこからなんとか歌声をシミュレーションできないかと考えていたときに、着信メロディの仕事でつながりがあったヤマハがVOCALOIDという歌声合成技術を完成させていたので、契約して歌声合成ソフトウェアを出すことになりました。歌声のバーチャル・インストゥルメントです。

ただ、一般的なバーチャル・インストゥルメントのソフトウェアのようにパッケージ化して販売して、みんなが手に取ってくれるイメージができなかったんです。

それよりはソフトウェアのパッケージにキャラクターを描いて、そのソフトウェアの「人となり」を表現するという訴求の仕方をしたほうがわかりやすいと思いました。

コンピュータ・ミュージックのソフトウェアは、ゲームのように発売日に列ができて何十万本も売れるような市場ではありません。当時のバーチャル・インストゥルメントは1000本も売れればヒット作と言われるような世界で、それでも「MEIKO」は初年度で1500本も売れました。

ただ、2006年2月に発売した二つめの歌声合成ソフトウェア「KAITO」については、予想を下回る500本ほどでした。「KAITO」は日本語に対応した男性歌唱としては世界初のVOCALOIDエンジンの歌声合成ソフトウェアです。