パリで師匠のオルガ先生と。「大切な写真は壁に飾ることにしています」(雑賀さん)

パリで師事したオルガ・プレオブラジェンスカ先生の指導は、火のように激しく情熱的だった。

「その頃の私は悪い日本人の典型でね。尊敬する先生に踊りを直されると申し訳なくて涙ぐんでしまうのですが、先生は『陰気な顔は見たくない!』と叱る。必死で笑顔を作ろうとすると、『なんで笑う! お前は不気味だ』と怒鳴られる。日本に帰ろうか、いっそ死んじゃおうかと思うくらい悩みました」

しかし周囲を観察するうち、稽古場に立つだけでその場を明るくする踊り手が、オルガ先生に好かれることに気づく。

「それは舞台に立つ者として、必要な条件ですよね。ですから私もオドオドするのをやめて、注意されたら『わかりました、やってみます。どうですか?』と胸を張って応えるようにしました。自分の体と向き合い、レッスンに猛然と励んだ結果、先生が『お前は私の宝だ』と言ってくださったほど、愛情をかけてもらえるようになりました」

2年間の留学を終え、帰国後は小牧バレエ団に復帰。多くの舞台に立つほか、NHKの音楽娯楽番組『しらべに寄せて』で創作バレエを振り付けるチャンスにも恵まれた。

独立してスタジオを構え、バレエ団を結成して活動を始めたのは28歳の時。「結婚して子ども2人を育てながらですから、体力的にも精神的にも、一番大変な時期でした」。そんな頃、かつて共演したマーゴ・フォンティーンの舞台を観に行ったという。

「楽屋を訪ねて彼女を見たら、涙が止まらなくなってしまって。やつれた私を見て察したのか、黙ってトゥシューズを脱ぎ、サインをして渡してくれました。それは今でも大切な宝物ね」