マーゴ・フォンティーンのサイン入りと、娘のうたこさんが初めて履いたトゥシューズは宝物だ。袋は古今亭志ん生師匠から贈られたもの

今できる表現を

子育てが一段落し、50歳を過ぎてから習い始めた琵琶を伴奏に取り入れるなど、つねに新しいチャレンジを続けてきた雑賀さん。

70代、80代と年齢を重ねていくなかで、「体が動きにくくなったのは確か。でも、たとえば座ったままで踊るバレエのように、最小限の動きで観る人に感動を与えることはできないかと、逆にアイデアが膨らむようになりました」。

去年インフルエンザにかかってからは、右耳の聴力が落ちて補聴器が必要になった。伴奏が聞こえにくいのは痛手に思えるが、「『静寂を音楽にする』ということを、考えています。人類が踊り始めた時には、音楽なんてなかったのですものね。静寂の中で、観ている人が音楽を感じてくれるような踊りはどんなものだろうって、今はそれを勉強中なんですよ」。

数日前には、知人の誘いで宮内庁楽部の演奏会を初めて鑑賞したそうだが、「雅楽では、楽器を運んでセッティングするまでを、演奏家が舞いのように静かに美しく行うのに感心しました。

だから今度、バレエでも踊りの中で背景や大道具を動かしてみるのはどうかしらって。歌舞伎の黒衣(くろこ)みたいに黒いチュチュを着せてね」と、次々に浮かぶアイデアを語る雑賀さん。

人生をかけて愛するものがある幸せ、創作することの喜びは、年齢を超えた力を与えてくれているのかもしれない。

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