外出や趣味を楽しむ時間など全くない
「朝から晩まで休まる時間がありませんよ」
そう話すのは80歳の女性。彼女は90代の夫の介護を10年ほど続けてきた。今でこそ、夫は特養に入所しているため彼女の負担は軽減しているが、かつては本当につらかったと当時の様子を振り返った。
「朝、夫が目を覚ますと、すぐに介護の日課を始めなければならなくてね」
夫が認知症を患っているため、何度も同じ質問をしてくるという。
「今日は何曜日だ?」
「ご飯はいつ?」
そのたびに妻は同じ答えを繰り返すが、次第にイライラが募る。妻が答えても夫は満足せず、また同じ質問をしてくる。この繰り返しは彼女に精神的な消耗をもたらしていることは言うまでもない。最初は辛抱強く対応できた妻も、数カ月、数年と経つうちに限界を迎えるだろう。朝起きてから夜寝るまで、夫の世話と、同じ質問に答えることが彼女の生活のすべてになり、外出や趣味を楽しむ時間など全くないと嘆いた。
日中、夫は食事中に何度も食器を倒し、食べ物を床に落とす。それを片付ける妻は、ただ黙々と作業を続けるが、心の中では「もうこれ以上は無理だ」という思いが募っていくそうだ。
認知症の介護では、こうした小さなトラブルが日常茶飯事であり、それに対応する介護者の心の中にはストレスが積み重なっていく。