事態はさらに深刻化する
そのストレスがピークに達するのがとくに夜間だという。
寝静まるはずの夜も、夫は時折徘徊を始めた。扉に鍵をかける必要があるが、夫は外に出たがり、何度もドアノブに手をかける。そのたびに妻は目を覚まし、夫をベッドに戻す。こうしたことが一晩中続き、妻は一睡もできないことが多いという。日中の介護と夜間の見守りの両方が重なることで、妻は自らの健康を保つことができなくなっていった。
夫の介護に没頭するあまり、自分の身なりに気を使う余裕すら全くなくなっていたという。自分がどれほど疲れているのかを感じながらも、誰にも相談できず、誰も助けてくれないという孤立感が一層強くなる。彼女の一日は、夫の介護で始まり、夫の介護で終わる。その繰り返しが続き、彼女は自分を失い続けていったという。
事態はさらに深刻化する。認知症の進行によって、夫は次第に暴力的な言動を取るようになったのだ。妻が一生懸命に介護をしているにもかかわらず、夫は突然怒り出し、物を投げたり、手を出すような仕草をしたこともあるという。
介護する側からすれば、長年連れ添ったパートナーに暴言や暴力を振るわれることは精神的に非常につらく、心の傷が深まる。妻は「どうして私がこんなことをされなければならないのか」と思いながらも、介護を続けるしかないという現実に直面していたと振り返った。このような精神的苦痛は、介護者を深い絶望に追いやっていく。