蜷川さんの言葉
話題の映画『国宝』を観たけれども、歌舞伎俳優を演じた吉沢亮くんたちがあそこまで踊れるようになったのも、やっぱりボロボロになるまで稽古したからだと思います。それだけ苦労したんだから、いい評価をもらって当然だし、役が結晶になっていたよね。
山西惇(あつし)くんと佐藤誓(ちかう)ちゃんが新しく作ったユニット「らんぶる」の二人芝居も素晴らしかった。それぞれ30役ずつくらい演じて、それこそボロボロになっていた。(笑)
僕も『クリスマス・キャロル』では54役演じているけど、大変なものほど面白いんだよ。ゴルフでもそうでしょ。2オンするより第1打がちょろって。
そこから、草むら、バンカーに入り、バンカーがなかなか出ずやっと出して、刻んで刻んでグリーンに乗せたと思ったら、何度もオーバーして入らないというときがあるんですよ。何度打ってもうまくいかないときの苦しさたるや(笑)。
でも、簡単にグリーンに乗るよりもドラマがあって楽しいし、記憶に残るんですよ。
大変な思いをしても、なかなか役が掴めず、役作りに迷うことはあります。そんなときに僕が求めるのが、演出家・蜷川幸雄さんの存在なの。
『ハリー・ポッター』の稽古中にも、蜷川さんのドキュメンタリー映像を観ました。たとえば、初日の2日前にやっと井上ひさしさんの脚本が出来上がったという舞台『ムサシ』のエピソード。作家も絞って絞って結晶を出しているわけで、だから面白いものになるんだと改めて思いました。