落とし穴の底

編集部:本人は大満足しているだけで、周りが見えていない状態ですね。

所:そう、本人大満足だけど、実は落とし穴に入っちゃってる。モノに負けていると言うか、モノに振り回されてる状態、もう、落とし穴の底の方まで行っちゃってる。例えば、新車買ったら、毎週ピカピカに洗車してきれいにしちゃうっていうのもそうだよね。自分のは1万キロ乗ってても、新車みたいだ! って、いやいや、でも、その車のもっとピカピカなのはショールームにあるじゃん……。

私もたまに洗車することあるけど、途中で思うよね、「俺、車の管理人になってるじゃん! 」って(笑)。うちにはたまたま変なクルマばっかりあるから、ショールームの新車と比べるわけじゃないけどね。でも、ディーラーで売ってる車をピカピカに磨いて、誰も触るな! 汚すな! なんて始終気を遣って、そのうち売っちゃったりしたら、それこそ、中古車販売業になっちゃっているわけでしょ? 自分の持っているクルマは、同じ車種の中でも一番かっこいい! としたいならば、自分の生活の中で、おもいっきり使い倒すの。

農家の人が、10年、20年と使い続けたピックアップトラックなんてすごく素敵じゃん。錆びたり、凹んだりしてても、農道にポツンと止めてあると画になる。逆に、新車並にピカピカのピックアップが農道にあっても、嘘くさくて見てられないよね。クルマじゃなくても、例えば、アイスボックスだって、ホームセンターで青と白のプラスチック製の新品より、アルミで使い込んであるやつのほうが、味があってさ、キャンプに持ってってもカッコいいじゃん。

『所ジョージの世田谷ベース VOL.59 新解釈 スーパートコロ辞典』(著:所ジョージ/ネコ・パブリッシング)

編集部:確かに! ということは、つまりなるべく古くて味のあるものを買えば良いんですね。

所:そーじゃない(笑)。そうなると、話はまた変わってきちゃう。そこは、センスになってくるんだな。何もかも、新しいのが良いって考えない事が大事だ、って言いたいわけですよ。クルマを洗車する話をしたけど、洗車している途中に、太陽の暑さを感じたり、ホイールに水を当てて反射する角度を楽しむ水遊びにしたり、ボディにかけないで、上の方に水を吹き出させて、虹を作って子供に見せたり、という事を楽しむの! 洗車より、そういう感覚が上回っているのが大事、それがセンス。汗水たらして、ここにまだ、汚れが残ってる! じゃないんですよ。

編集部:洗車を水遊びと定義すれば、遊びの幅が広がりますね。

所:古くて味がある、って感じられるのは、その人のセンスだから。今、昔の国産スポーツカーがものすごい高値で取引されてるけど、私はひとつも欲しいと思わないもんね。それこそ、昔のフェラーリが何億円で取引されてても、いやいや、出して60万円かな~って。そもそもね、私は古いアメ車に300万以上出さないから。それ以上出したら、カミさんに怒られる(笑)。そのもの一個に対する、自分なりの価値観を磨くって大事だよ。