「家族の好物ばかり選んできたから。〈自分の好きなのを買おう〉と思っても、〈えっと、何を選べばいい?〉ってなるのよ」(ひろ美さん)

軽やかな罪悪感が人を優しくする

奈美 その後しばらくして、おばあちゃんは施設に入り、良太もグループホームに正式入居。京都で一人暮らしをしていた私に続き、ママも神戸のマンションで一人暮らしを始めることに。

ひろ実 最初は、つらかったよ。おばあちゃんを施設に預けた罪悪感や良太のいない寂しさ、体調や収入の不安が絡み合って。慣れるまで2年ぐらいかかったかな。外出していても、夕方5時になると「あ、帰らな!」って焦ってしまうの。誰も待ってないのに。(笑)

奈美 ママって2度の大手術を乗り越え、ダウン症の良太を立派に育てあげて車椅子で全国を飛び回るようなすごい人やのに、お菓子を買うみたいな小さな選択がずっと苦手だったよね。

ひろ実 家族の好物ばかり選んできたから。「自分の好きなのを買おう」と思っても、「えっと、何を選べばいい?」ってなるのよ。

奈美 大げさなことを言うみたいやけど、自分のためにお菓子を選んだことのない人は、自分と誰かとの適切な距離も選べないと思う。自分にとっての「好き」や「心地よさ」がわかってなかったら、「私は、この距離が心地いいから、離れて暮らそう」とは考えられないもん。

ひろ実 確かにそうやね。私も小さな選択を重ねるうちに自分の心地よさの基準がわかるようになって、一人暮らしも楽しくなった気がする。

今は自分のペースで家事や仕事をし、夜のデパートやコンビニでも、のんびりと買い物を満喫してますよ(笑)。かつてお菓子選びに苦労してた私が、最近では「ニューヨークに留学しようかな」なんて考えてるんだから、人は変われるものやね。