ぼんこさんが語った戦争体験談
2020年から2021年にかけて2度、私はオンライン上でぼんこさんのお話を伺うことができた。雑談を交えながらの和気藹々とした会合の中で、ぼんこさんはいくつかの戦争体験談を語ってくれた。
ぼんこさんの上級生は、東京で空襲に遭ったという。自宅が全焼してしまい、かろうじて焼け残った家財道具を持って、安全な場所へ逃げようとしていた。荷物を引きずりながら歩く道すがら、リヤカーを見つけた。彼女は持ち主のわからないリヤカーに向かい、「すみません。いただきます」と頭を下げ、荷物を積み込んだ。
「そうしてなんとか逃げ延びたって、その上級生は言っていた」
そこまで話したぼんこさんは、「リヤカーって、知ってる?」と言って微笑んだ。リヤカーは、今ではあまり見かける機会はない。この上級生のお話だって、今の感覚では「他人のものを盗んだ」という言葉になってしまう出来事だけれど、戦時中は仕方のない状況だったと、ぼんこさんは教えてくれた。
「捨て置かれたような物をいただきながら命を長らえたという話は、私にはよく分かる。でも今の人たちは想像もつかないと思うのよ」
「今の人」である私も確かに、完全に正しく想像できるとは言えなかった。それでも、ぼんこさんの言葉によって、戦争は少しずつその輪郭を濃くしていく。戦争体験談を聞くことで、当時の出来事だけではなく、人々の思いを感じ取ることができる。
「平和な国にいるのに、なぜ戦争について学ぶ必要があるのか」
この問いにはきっと、いくつもの回答がある。その中で私が辿り着いたのは、とても分かりやすい答えだ。
「この世界では、今も戦争が続いているから」