献立表にオムライスがあるとテンションが上がる父
健康とは言っても年相応に、父は高血圧と高脂血症の治療薬と、認知症の進行を抑える薬を服用している。定期的に病院に行っているが、午前中の診察の後、私とランチするのを楽しみにしているようだ。毎回、ホームに戻るのは午後2時頃になる。
父のスケジュールと私の仕事の予定を組み合わせて考えると、行ける日が限られるので決めるのが結構難しい。
父が老人ホームの敷地内にあるデイサービスに行くのは週に2回。病院は土日が休診だから、週に4日は無理な日がある計算だ。残りの3日のうち、私が午前中から午後まで一緒に過ごせる日を選んで予定を立てなければならない。あれこれ仕事が入っているため、手帳を見ながら考えていると父は言った。
「おまえの都合の良い日でいいぞ」
そして久しぶりに父の得意のセリフが出た。
「いつでもいい。俺は『サンデー毎日』だからな」
「仕事がないのは毎日が日曜日のようなものだ」という、父が退職した当時に流行った、週刊誌の名称に引っかけたギャグだ。私が気を使って、ウフッと笑ってみせると父はご満悦の表情だ。
やっと病院に行く日が決まり、私は父の居室の壁にかかったカレンダーに印を付けるため、太いサインペンを持って立ち上がった。
「金曜日に○をつけておくね。事務所に欠食届けも出しておくよ。ランチしようね」
すると父は机の上の献立表を手に取って、おもむろに私に質問する。
「金曜の昼ご飯は何かな? 見てくれ」
なるべく自分で文字を読んでほしいので、父に眼鏡を手渡して私は言った。
「パパが自分で確かめて」
献立表を見た途端父は、子どもみたいにはしゃいだ声を上げた。
「オムライスとカレーコロッケだ! 食べたいから、病院は違う日にしてくれ」
「えっ!」と思わず私は叫んだ。ホームの食事を担当する業者が変わり、父好みのメニューが増えて食事を楽しんでいるのは良かったと思うが…‥私は再び手帳を開き、日程を考え直さなければならなくなった。