投票所の父の後ろ姿を忘れない
牛乳を何パック飲んだのか忘れる父なのに、例えば政治や株価などの時事ネタなどについてはしっかりとわかっていて、認知症になる前と同じように自分の考えを話してくれる。7月の参議院選挙の前には、父がどの党を推しているかやその理由も教えてくれた。投票日の前日、父が私に聞いてきた。
「明日、何時に迎えにきてくれるんだ?」
今夏は北海道も高温が続いているので、私は父を外に連れ出すことに不安があった。
「車の中も陽射しが強くてすごく暑いから、投票に行くのはやめない?」
そう言う私を父はたしなめた。
「選挙権を行使するのは当たり前のことだ」
投票所の体育館の中を、父は普段より大股で進んで行く。背筋を伸ばししっかりと歩く父の後ろ姿を、私は忘れない。
(つづく)