突然の一斉休校で購買部のパン屋は

戦後間もなくから続く老舗が「最大のピンチ」を迎えている。好味屋(こうみや/東京・杉並区)は手作りのパンと洋菓子でファンの多いお店だ。

好味屋の藤村裕二さん・京子さんご夫妻(撮影◎片田直久)

切り盛りするのは藤村裕二さん(69歳)と京子さん(68歳)ご夫妻。杉並区内を中心に都立高校7校の購買でもパンを販売してきた。

「本当に正直に一つ一つ心を込めてます。彼(裕二さん)はお客さんが箱を開けたときに『わぁっ』って言う顔、高校生が一口食べて喜ぶ顔を想像して作っている。昔ながらの味を守っている店です」(京子さん)

パンなら、卵黄だけで炊いたカスタードクリームを使ったクリームパン系の4種。天然塩のフランスパン生地を使ったピザパン、ベーコンポテト、ベーコンフロマージュ、チーズフランスなどが人気商品だ。

安倍首相が全国の小中高校、特別支援学校の一斉臨時休校を要請する方針を示した2月27日、好味屋は激震に見舞われた。売り上げの8割を占める購買を閉めざるをえない。

「製造業なんで、材料が余って腐っちゃうから安く売るわけにもいかない。2月に使った材料の費用は3月に払う。だけど、3月の売り上げじゃ足りない。この年になって借金もしたくないし。窯も去年新しくしちゃったんで(笑)」(京子さん)

娘さんが描いたポスターがSNSで話題に(撮影◎片田直久)

あまりのことに京子さんは珍しく意気消沈。見かねた娘さんが「拡散希望! ! 好味屋を助けてください!」と大書したポスターを作った。

店を手伝う前はバイオリンを教えていた京子さん。かつての教え子にポスターの写真を送った。

「そしたら、『藤村さん、困ってんじゃないですか。拡散します』って返ってきて。その日から一気に広まっちゃったんです」(京子さん)

SNSで危機を知った高校生や卒業生、地域の人々、メディア各社がお店を次々に訪れた。ちなみに藤村さんご夫妻はスマホを使えない。

「僕らも50年やってるから、プライドはある。でも、本当に困ったら、助けを借りたほうがいいかもしれない。みんな困ってるけど、その度合いはそれぞれ違う。本当に困ってる人はちょっと困ってる人に『助けて』って。声を上げていい。何も恥ずかしいことはない」(裕二さん)

春よ、来い。心から願う。