塗装工事の間、妻は決まって10時と3時にお茶を出していた…(写真:stock.adobe.com)
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妻の完璧な応対

「私たちが生きられるのはあと10年ぐらい。だからこれが最後の工事になるわ」「そんなことはありませんよ」

家の外で、妻が塗装業者と話している。外壁の塗装も今日で終わりだ。組んだ足場を、ヘルメットをかぶった人たちが解体していた。毎日、4、5人で作業をしてくれたので、1週間という短い期間で工事が終わる。ついでに、水の流れが悪かった雨樋(あまどい)も直してもらった。妻は樋のことを「とゆ」と呼ぶ。関西の言葉だ。

決済は私がするが、発注から作業の打ち合わせ、色決め、その後のやりとりまで一切合切、妻に任せている。私は口出ししない。そのほうがうまくいくからだ。

塗装工事の間、妻は決まって10時と3時にお茶を出していた。出すのは微糖の缶コーヒー。メーカーが複数あるので、いろいろな種類を用意し、お茶請けには袋入りの煎餅や個包装のチョコレート、時にはドーナツなどを出しているようだ。

今回に限ったことではない。お風呂の入れ替え工事、台風被害のベランダの屋根工事、耐震工事など、どの工事の業者に対しても、10時と3時のお茶出しを、古風にも大切にしている。だから業者受けがいい。

工事が終わると、請求書を渡され、支払いの段になる。そのとき、妻は必ず箱入りのお菓子を用意して、お金と一緒にそれを差し出す。

「ありがとうございました。おかげさまできれいになりました」

そんな妻の言葉を聞きながら、私はいい人と結婚したと思っている。だが、口に出したことはない。


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