そのあとU君は店を閉め、全員で繁華街に移動した。大衆居酒屋で若者たちに埋もれる、70歳の同級生4人。深夜1時すぎまで飲んでは喋り、喋っては飲み、時には大笑いしたりしんみりしたり……。K子は一滴も飲めない下戸なので、ウーロン茶を飲みながら酔っ払い3人の話をにこにこしながら聞いてくれる。
特別、仲が良かったわけでもなく、55年の歳月の間には、音信不通のこともあった。むしろ疎遠な時期のほうが長かったかもしれない。そんな4人がこうして再会し、酒を酌み交わしながら、あのころの時間を慈しんでいる。
中学時代、アイドルのように可愛い顔をしていたU君は、見事に貫禄が付き、店主らしく喋りもうまい頼もしい人になっていた。70歳になっても、外見も中身も非の打ちどころなく整ったT君は、いくら飲んでも顔色ひとつ変わらない。そして、あのころのように冗談のひとつも出なかった。
この4人で集まろうという話になったとき、私はU君に聞いた。「私たち4人以外には誰か来るの?」。もし綺麗どころの子が参加したら、おかめ顔の私は肩身が狭いな、と心配になる。70歳になってもまだそんな乙女心が残っていたことに驚いた。
55年前、15歳だった私は、勉強も運動もぱっとせず、内向的で存在感のない中学生だった。東京に出てひとり暮らしをして、社会に揉まれ、家庭に揉まれ、人並み以上の苦労もしたと思う。
だからこそ、今のめぐり逢いがあるのかもしれないと、自分の人生に感謝した。もし上品で素敵な都会の奥様になっていたら。この同級生たちと酒を酌み交わすこともなかったかもと、笑みを浮かべる私がいた。
深夜、徒歩で帰宅するというT君は、あっという間に夜の静寂の中に姿を消した。酔ったふりをして抱きつかないまでも、せめて握手ぐらいして別れたかったな。次いつまた、この最強メンバーで会えるのかもわからないし。そう私は心の中でつぶやいた。
その瞬間、故郷の夜風が身にしみて、涙があふれてくる。そんな私を、K子がじっと見つめていた。K子も涙目だった。