今まで育ててきたものを、大切にしなくては

9月に入り、共演の皆さんと『プリンス・オブ・ブロードウェイ』の稽古が始まると、目的がはっきりして気持ちが落ち着きました。とはいえ、今度は皆さんのレベルがあまりにも高いので、自分の足りない部分を痛感せざるをえない。音楽大学を出て、歌を専門的に究めている方々ばかりだから、譜面を渡されてすぐに、皆さんその場で自分の持ち歌みたいに歌えるのです。

私はもともと、稽古を重ねて本番まで仕上げていくタイプ。宝塚では、稽古場以外の空いている教室を使っていつでも反復練習をすることができました。でも、ニューヨークでは稽古場は1ヵ所だけで、ひとりになって練習できる場所がありません。今、指摘されたことを確認して練習したいのに、それがままならない。どんどん気持ちが焦り、何度も心が折れそうになりました。

そんな時、歌のレッスンをしてくださった先生に、焦っている気持ちが歌声に表れていると指摘されたのです。そして先生は、「気持ちはわからないでもないけれど、今すぐあの人たちと同じになろうと思っても無理だから。でも彼女たちのなかには、自分もレオンみたいに踊れたらいいのに、と思っている人もいるはず」と言ってくださった。そうか、自分は持っているものがいくつもあるのに、何も持っていないような気持ちになっていた。今まで育ててきたものを、もっと大切にしなくては……。そう気づいたのです。

宝塚の頃は、ランチタイムはひとりになってイヤフォンで音楽を聴き、午前中の復習をしながら食べるのが定番でした。でも、英語も上手になりたいしコミュニケーションも大事だと思い、休憩時間も積極的に共演の皆さんと一緒に過ごすようにしました。

慣れない英語でのやりとりもあって、毎日、疲労困憊。でもその分、得たものはすごく大きかった。世界のトップレベルの実力を間近で感じることができたし、自分が舞台で何を大切にしたいのかも、改めて見えたのです。

滞在中にブロードウェイの舞台もたくさん見ましたが、観客の立場になった時、必ずしも技術的に上手というだけで心に残るわけではないですよね。私は英語の台詞をすべて理解できているわけではないけれど、何かを伝えたいという気持ちを受け取ると、すごく感動する。舞台は総合芸術ですし、何より人間の心情を演じることが大事なのだと思いました。