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年齢と人の輪

クリスティン:博士は高齢者と社会のつながりの変化を研究してこられました。年をとるにつれて社会とのつながりは希薄になるけれども、それは必ずしも悪いことではないという結論を導いておられます。これについて詳しく聞かせていただけますか。

ローラ:悪くないどころか、いいことでもあるのです。ジェロントロジー(高齢社会総合研究)の分野では、高齢になると社会とのつながりが限定されることはずいぶん前からわかっていました。だから高齢者は悲しんだり落ち込んだりしやすいと推測されてきたわけです。

ところが私たちの研究では、高齢者は中年世代やもっと若い世代よりもむしろ精神的に安定していることがわかりました。

その理由の1つが社会とのつながりが限定されることです。中年期になると多くの人は人間関係の整理を始めます。意図的に人づきあいの輪を小さくするわけです。話していて微妙な気持ちになる相手や、満足感の得られない相手とのつきあいを絶ちます。

私たちは生きていくうえで大勢の人とかかわります。それは同僚だったり、子どもの友達の親だったりするのですが、そうした相手を私たちは《周辺の他者(peripheral others)》と呼んでいます。中年期以降は周辺の他者と疎遠になり、つきあいの輪が小さくなります。

身近な人たち(互いの関係が変わりにくく、強い感情を呼び覚ます相手)はそばに残ります。つまりいい意味で取捨選択が起こるわけです。結果として高齢者のそばには自分にとって大事な人と、自分を大事に思ってくれる人が残ります。

クリスティン:でもリスクもあるのではないでしょうか? 数少ない大事な人だけに囲まれていたとして、そのうちのひとりが欠けたら─誰かが亡くなったり、引っ越したりしたら、精神的ダメージが大きいように思います。

ローラ:それについても調査しました。高齢者が身近な人を失うと、それまで身近とまではいかないまでも交流のあった人が内輪のつきあいに入ってきます。

たとえばあなたが子どもを失ったとします。するとたとえば姪との距離が縮まって、姪が以前よりも大事な存在になるわけです。まったく新しい人が現れるのではなく、外側にいた既知の誰かが内側に入ってきます。