最悪のタイミング

クリスティン・ベンツ:これまであなたはリタイア生活の経済面について、自分たちで管理できなくなった場合にどうするかを決めておくこと、さらに家族にそれを伝えることの重要性を訴えてきました。

まず、あなた自身の経験をうかがいたいと思います。今のような考えに至ったのはお母様の病気に負うところが多いと聞いています。非常に個人的な話ではありますが、シェアしていただけますか?

キャメロン・ハドルストン:まず父の話から始めたいと思います。なぜかというと母との経験は父のことが発端になっているからです。

父と母はわたしが大学生のころに離婚しました。わたしが大学を卒業したあと、父は再婚しました。お金や死についてはあまり話題にしたがらない人で、わたしが成人してからもそれは変わりませんでした。

あるとき、母から《お父さんがどんな最期を望んでいるのか、今のうちに話を聞いておいたほうがいいんじゃない? 彼が本当に望んでいることを、娘のあなたは知っておくべきよ》といわれました。

父はいつも冗談めかして《おれが死んだら釘を打つみたいに地面に埋めてくれたらいいさ》なんていっていました。

死ぬときの話なんてまだまだ先でいい、とわたしは思っていました。当時はまだ20代でしたから、母の助言を真剣に受けとめなかったんです。

ところが父は61歳のとき、就寝中に心臓発作を起こして死んでしまいました。弁護士のくせに二度目の結婚では遺言状さえ作成していませんでした。

わたしは早すぎる父の死に打ちのめされました。父の望みは何ひとつ文書化されておらず、あとのことは再婚相手の女性が取り仕切りました。その人とわたしはうまくやっていましたが、葬儀についても、埋葬についても何も相談してもらえませんでした。彼女は父のために惜しみなくお金を使い、最高級の棺や立派な墓石を用意しました。

父は少額の生命保険に加入していて、姉とわたしを受取人に指名していました。そこから墓石の費用の足しにいくらかお金を出したのを覚えています。でも、父がわたしたちにほかに何か遺したかったのだとしても、わからないままです。

父の遺産はすべて再婚相手の女性が相続しました。実は彼女も、比較的若くして亡くなりました。彼女が亡くなったあと、父の形見(仕事机など)をもらいました。でも本当は娘たちに財産を遺したいと思っていたかもしれません。その答えは永遠にわかりません。

父はお金のことを話しませんでした。生命保険だけでも受け取ることができてよかったのかもしれませんが、父の望みがわからないので、わたしたち姉妹と再婚相手の女性のあいだにはわだかまりが残りました。