(写真提供:ヤマザキマリさん)

同じ三つ編みなのに

ただ、そんな私も、過去に一度だけ髪型に強いこだわりを持ったことがあった。高校の頃、パンクやニューウェーブ系の音楽の影響を受けていた私は、髪をドレッド風の三つ編みにすることで、自分の嗜好性を主張していた。校則では肩より長い髪は三つ編みにするよう明記されていたが、細かくても三つ編みなのだから違反ではないと思っていた。

ところがある日教師から呼び出され、「ヤマザキさん、髪は顔のフレームです。それなのにどういうことなんですか、その頭は!」と怒られた。その日の帰り道、工事現場にいた一人の男性がヘルメットを取ると、完全な丸刈りだった。「フレームないじゃん」と思った私は、その足で理髪店へ行って髪の毛を剃った。

これで誰も文句を言えまいと翌日学校へ向かうも、通学路で生活指導の教師に見つかり、母も呼び出され、親子で厳しく叱られた。しかし母は私を責めることもなく、言われた通り速やかに鬘を購入し、我慢しなさい、とだけ言った。調和を乱す異端の娘をイタリアへやる決意はすでにできていたのかもしれない。

安保闘争の時代、私とは逆に髪を伸ばすことで学校の校則に抗(あらが)った男子たちもいたようだが、人間にとって言語以外で自身の考えを表現しやすいのが、頭のてっぺんに生えた毛、というのはちょっとばかり情けない。そんな過去を送ってきた私ではあるが、50代も後半となった今は日々増える白髪に悩まされながら過ごしている。

【関連記事】
ヤマザキマリ イタリアにて200平米・築500年の家から引っ越して。95歳の家主の女性から莫大な修繕費を要求されるも、彼女の娘から知らされたまさかの事態とは【2025年上半期ベスト】
ヤマザキマリ「映画『天国と地獄』で印象的だった、山崎努が眉間に深い皺を寄せるシーン。そんな山崎さんに、ラジオ収録で意外な指摘をされて…」
ヤマザキマリ「なぜ外国人旅行客はTシャツ短パン姿なのか」と問われ、あるイタリア人教師を思い出す。観光客ばかりナンパする彼が言っていた「愚痴」とは

歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!