不条理を受け入れてどう闘うか

演劇をはじめパフォーミングアーツの舞台が中止になったことで何が問題か。整理すると3つあります。

まず今の演劇界は、借金をするか、あるいは支払いを待ってもらい、どうにか上演までこぎつけるという構造で成り立っていること。かつてのように前売り券を手売りするケースはまれで、ほとんどのチケットがネットで販売されているので、収入を得るのは公演終了の1週間から10日後になります。そのチケット収入がなくなれば、借金だけが残る。当然、倒産するところが出てきます。

ある試算では、さまざまな演劇の公演中止によるチケット払い戻しだけでも合計で約57億円。音楽などをあわせると、損害額は約450億円と言われています。今後2~3年は公演を打てなくなる劇団もあるだろうし、やむなく解散というところも出てくるでしょう。

とくにかわいそうなのは、照明や音響のスタッフです。徒弟制度の世界で、中小零細、あるいはフリーランスの人が多く、法人格を持っていない場合、融資の対象にもなりません。たとえ融資を受けられても、借金ですから、いずれ返さなくてはいけないわけです。

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2つ目にアーティスト側の問題です。たとえばこの3月に知名度の高い劇場に進出するなど、ステップアップの大事な局面にいたアーティストは、その機会が奪われる。結果的にやめてしまう人も出てくるかもしれません。本来だったら、将来、社会に貢献できるはずのアーティストが、その瞬間に消えてしまう。それは、とても残念なことです。

東日本大震災の後、たくさんのアーティストが慰問に行きましたが、多くの人々の心を慰めたのは、長年歌い継がれている唱歌やクラシック音楽でした。この時代に私たちが作っている芸術は今の人たちのためであると同時に、100年先の被災者や難民や地球の裏側の人たちのためでもある。これを途絶えさせてしまうと回復にすごく時間がかかります。

3つ目は、今この問題に直面しているすべての人の問題です。ウイルスによる災禍は、不条理です。この不条理を受け入れて、そこでどう闘うか。私は大学で学生たちに、こういうことが起きたときに“ゼロリスク”はありえない、と教えています。