「この時代に私たちが作っている芸術は今の人たちのためであると同時に、100年先の被災者や難民や地球の裏側の人たちのためでもある。これを途絶えさせてしまうと回復にすごく時間がかかります」(撮影:本社写真部)
新型コロナウイルスの影響で、数多くの劇場公演が延期・中止に追い込まれている。昨日「緊急事態宣言」が発令され、今後さらに厳しい状況下におかれるだろう。しかし、非常事態といえる今だからこそ、演劇をはじめとする芸術が果たす役割があるのではないか。20年前より「芸術の公共性」について論じてきた劇作家・演出家の平田オリザさんに話を聞いた。(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)

※4月14日発売の『婦人公論』4月28日号から、一足先に配信します

“すべて自粛”という方向に

新型コロナウイルスへの感染防止対策として、演劇等の公演自粛が始まったのは2月の末。期間が長引くにつれ、パフォーミングアーツ界のダメージは計り知れない大きさになっています。

2月21日、小池百合子東京都知事は「500人以上の大規模イベントは向こう3週間自粛してほしい」と、具体的な数字を提示して要請しました。これはある意味、わかりやすかった。それから数日後、安倍総理が「多数の方が集まるような全国的スポーツ、文化イベント等は自粛を要請する」と発表しましたが、表現が曖昧なため、一体どの程度の規模のイベントをさしているのか、人によって解釈はまちまちでした。

演劇の世界でいえば、500人、あるいは1000人以上の公演は、相当大規模と言えます。小劇場の場合はおおむね200人以下なので、決して大規模イベントではありません。でもそこは日本人のメンタリティもあって、“すべて自粛”という方向に行ってしまった。それが、今日(※取材は3月19日)までの状況です。

大阪のライブハウスがクラスターの発生源になってしまったことも大きかったのでしょう。ただ音楽といってもノリノリで踊りながら聴くのと、黙って座って聴くクラシックのリサイタルでは、状況が違います。人数やジャンル、公演形態によってリスクは異なるのに、一律に自粛に向かったのは、いささか残念です。