事務処理を手伝うだけ

お仕事については、やなせ先生は奥さまに、成功したことや面白いことを話していました。 たとえば、『見上げてごらん夜の星を』というミュージカルが大阪で大成功すると、「大阪に見に来なさい」と暢さんを呼んでいました。

ただ、細かいことは一切話さない。自分で注文を受けて仕事をしていて、奥さんは仕事から発生する事務処理を手伝うだけでした。

<本業の漫画では代表作に恵まれない日々が続いたものの、やなせさんは手塚治虫や永六輔などさまざまな著名人との仕事を手掛けた。中でも、やなせさんの盟友と言えるのが、作曲家のいずみたくさん。『手のひらを太陽に』をはじめ、さまざま楽曲を2人で世に送り出してきた>

やなせ先生は、『見上げてごらん夜の星を』のミュージカルで舞台装置を担当したことをきっかけに、いずみたくさんと知り合いました。

いずみたくさんをモデルにしたいせたくやを演じる大森元貴さん(『あんぱん』/(c)NHK)

その後『手のひらを太陽に』の作詞家と作曲家という形で関係性が深まりました。

やなせ先生が編集長を務めた『詩とメルヘン』という雑誌では「0歳から99歳までの童謡」というコーナーがありました。毎月やなせ先生が作詞していずみさんが作曲した楽譜を掲載していたのです。なぜ0歳から99歳かというと、やなせ先生は「童謡みたいな歌は好きか嫌いで別れるし、年齢の区別をつけたくない」という考えでした。いずみたくさんもやなせ先生の気持ちに共感して、2人で作り上げてきたシリーズです。

やなせ先生は、いずみたくさんについて、「言葉の持つメロディーや意味を大切にして、作曲してくれるから好きなんだ」とおっしゃっていました。いずみさんは、人気絶頂の頃も、作曲の勉強をしていたそうです。そういう努力をするいずみたくさんのことをやなせ先生はすごく信頼していました。いずみさんの本質みたいなものを気に入ってお付き合いしていたのだと思います。