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心に傷を抱えるつらさやうまくいかない子育ての悩みを、ここでは安心して共有できる。「子どもを怒鳴った」などの打ち明け話が出ても誰も非難しない。良い親になれない現実をどう改善するか、当事者同士で考える。内田さんはこう語る。

「子育て支援で必要なのは、まず親自身の困難に寄り添うこと。語り合うことで、私たち専門家がどうサポートすればいいかも見えてくるし、患者さん同士で励まし合うこともできる。親が自分自身を大切にできるようになり、やがて子どもを大切にすることができるのだと思います」

 

病を抱えた親の子育てを町全体で支え合う

なかまの杜の「子育て当事者研究」は、北海道浦河町にある、精神障害などを抱えた人たちの地域活動拠点「べてるの家」の当事者研究がベースになっている。1984年に地元の教会やソーシャルワーカーに支えられながら、精神障害のある人たちが薬だけに頼るのではなく、対話によって自分たちの困難を認め、病気を持ったまま地域で生きていこうと生まれたものだ。

さらにべてるの家のメンバーらは自分たちで昆布販売などの事業を営み、地域経済を活性化させた。周囲の人々も彼らを少しずつ受け入れるようになり、やがて、病気や障害を抱えながら親になった人たちの子育てを、行政や支援者たちが見守ってきた歴史がある。

私が訪れた日、浦河町の役場で「子育て支援検討会議(応援ミーティング)」が開かれていた。会議室には、統合失調症と買い物依存症があるシングルマザー(43歳)と2歳の息子を囲み、町の教育委員会、病院、児童相談所、子ども家庭支援センターなどから約10名の関係者が集まっていた。

女性には、すでに成人した子どももいるが、精神的に不安定だった時期の子育ては難しく、当時はネグレクトに近い状態になったこともあったという。だが現在は、町の精神科クリニック「浦河ひがし町診療所」に通院し、医師や看護師、スタッフに見守られながら、息子をここまで順調に育ててきた。

ひがし町診療所は、べてるの家ともつながりが深く、浦河赤十字病院の精神科医だった川村敏明医師が退職後、「地域に根付いたクリニックを」と開業した。診療では時間をかけて患者に向き合い、患者同士で支え合う会を開くなど、利用者が必要な時にはいつでも立ち寄れる場所として機能している。前述の女性も、心身の調子が悪ければいつでもここのスタッフに息子を預け、家で休んだり買い物に出かけたりすることができる。