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医師も患者と同じように弱さを見せていい

浦河町にはほかにも精神科を含めたクリニックがある。児童精神科医の八十川真里子医師が、内科医の夫とともに設立した「うらかわエマオ診療所&からし種」だ。知的障害や発達障害のある小・中学生が放課後に通えるデイサービスがあり、親子の両方が精神科医の診察やカウンセリングを受けられる。

ともに気分障害を抱える、ある母娘のカウンセリングの様子を見せてもらった。長女はすでに就職し家を離れ、中学生の次女と母親で現在2人暮らしをしている。母は離婚後に金銭トラブルを抱えながら2人の娘を育ててきた。

一緒に暮らしていた頃は長女とよく激しい喧嘩をしたらしい。大騒ぎを聞いた近隣住民から通報を受け、警察が様子を見にくることもあった。次女は不登校を経験したが、親子で診療所や放課後デイサービスに来るようになり、関係はずいぶんと変化したという。

「真里子先生に親子で診てもらうようになって、お母さんは変わったよ。すごく穏やかになった。私もここの放課後デイに来るようになって、学校に行けるようになったもんね。ここならたとえ感情を爆発させても、受け止めてもらえて、しっかり話も聞いてもらえる。真里子先生に悩みを話せるようになって、自分のことがよくわかるようになった」

八十川医師は優しくうなずく。

「あなたはよくやってるよ。年下の面倒もよく見てくれるしね。お母さんも本当に落ち着いてきたよね」

実は八十川医師自身も、精神的に調子を崩し育児と仕事に苦しんだ過去があった。

「静岡で精神科医になったはいいものの、頑張りすぎて燃え尽きてしまって。休職した時期もあったのです。『べてるの家』のことを知ってこの町にたどり着き、周囲に支援されながら、なんとか育児をしてきました。そしてご縁があって、このクリニックを立ち上げることができて。

私のところに来てくれる利用者さんたちは、みんな私の弱さを知っています。それでも相談に来てくれる。支援する側とされる側の境目があまりない町だからこそ、こんな私でも母子支援にかかわれているのかもしれませんね」