この日の「応援ミーティング」のテーマは、そんな息子を保育所に預けるかどうかだった。
「診療所の皆さんに助けてもらってここまできたけど、大人とだけ接していたら、同世代の子と触れ合うチャンスを逃して成長に良くないんじゃないかと心配で。そろそろ保育園に預けようかと思うんです」
彼女の声を聞き支援者の多くがうなずくなか、当の男児を膝にのせてご飯を食べさせていた川村医師は「俺がさみしいから嫌だなぁ」とみんなを笑わせてから、真顔でこう言った。
「この子は大人に囲まれて安心してスクスクいい子に育っている。何も心配いらないよ。大事なのは、この子を保育所に入れた後、母親であるあなたが自由になった時間をどう過ごすか、しっかり考える時期にあるということじゃないかな」
神妙に頷く女性を前に、川村医師はこう続ける。
「急に依存症を治して、しっかりした親になれって言っているんじゃないよ。しっかりした親が子どもを幸せにできるとは限らないからね。ただ、この子が外の社会に安心して出るためには、親のあなたも幸せに生きないと。保育園に預けてもいいけど、いつでも私たちのところに顔を出して、子育てのことを報告し続けてほしい。これからもみんなで育てていけばいいんだからね」
症状の重さにもよるが、精神障害などのある親が出産した場合、児童相談所が介入し、必要であれば乳児院入所や特別養子縁組の措置をとるケースは多い。だがこの町では長年、親子をなるべく隔絶させず、行政、教育委員会、福祉、医療の専門家が関係性をオープンにして、協力し、子育てに介入し見守る姿勢を保っている。川村医師は言う。
「虐待などの防止には、子が安全に安心して育つ環境を作るのが大前提です。だが、精神疾患を理由に、安易に親子を離れ離れにするのが子育て支援と言えるのか、私には疑問です。浦河では30年以上試行錯誤を続け、親を悪者にしない視点をみんなで守り続けてきたのです」