子どもと親の人生を同時に支え続ける

子どもに重い疾患や障害がある場合にも、虐待への注意は必要で、親へのサポートが欠かせない。

札幌市にある社会福祉法人「麦の子会」(通称むぎのこ)は、発達障害児の療育施設として83年に生まれた。現在は、発達支援、相談支援、家族支援、地域支援を柱に、精神科クリニックや放課後デイサービス、ショートステイやの親への相談事業など包括的な支援を行う。24年間、むぎのこにかかわってきた統括部長の古家好恵さんに話を聞いた。

「もともと障害のある子どもたちの居場所を作る目的で始めたのですが、利用者の親御さんと話していると、やはり親、特に母親へのサポートが不可欠なんだとわかってきました」

発達障害児を抱えた親は、日々思い通りにいかない子育てのなかで、大変な苦労をする。周囲の無理解から孤立し、深く悩む人も多い。

「いっぱいいっぱいになって、子どもにつらく当たってしまうケースは多い。でも、親も苦しんでいます。だから、子どもを怒鳴ったり叩いたりしてしまったら、必ず電話をしてくださいと伝え、私たちはいつでも自宅に向かう態勢をとっています。すぐに自宅に駆けつけ、とにかく話を聞く。それを繰り返していると次第に、親も爆発する前に自分から助けを求められるようになります」

子どもを預かる時間を増やす、家事や育児を手伝うなど、一人一人に必要な支援をする。団体として利益を考えるより先に、とことん、親の苦しみに寄り添うことに徹してきた。そうした職員たちの熱意が伝わるのだろうか。親がまず職員に心をゆるし、安心すれば、子どもへの接し方も変わると言う。

「子の障害のあるなしにかかわらず、誰だって気持ちに余裕がなくなれば子育てがつらくなります。親を責めても、追い詰めるだけ。支援を受けることは甘えではありません。親に余裕が生まれれば、必ず落ち着いて子育てができるようになります。結果、親も子も楽になれるんです」

現在、むぎのこでは、ファミリーホーム(家庭環境を失った子らを里親や児童養護施設職員などが養育する住居のこと)を設立し、障害児を受け入れている。

かつて障害児を抱えてむぎのこを利用していた親たちが、今度は職員や里親になるという良い連鎖も生まれている。ある女性は、里親になった今がとても幸せだと言う。

「孤独でつらかった子育てを、むぎのこの支えで乗り切ることができました。経験を生かし、子育てに困っている親御さんの話を聞き、里子を迎えられているのは、ありがたいこと。子育てのやり直しをさせてもらっているようです」

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北海道で見られたこうした地域包括型の子育て支援は、一朝一夕に確立できるものではない。だが、虐待を防ぐために、こうした取り組みが全国に広がることを期待したい。

そして私たち一人一人にも、人知れず子育てに悩む隣人の姿を知り、通報する前に対話をしてみるという努力が必要だろう。自分だって同じ立場になるかもしれない。子どもを守るには多角的な支援が必要だ。