そのために撮影中、僕が大切にしていたのが現場で生まれるライブ感です。作り込んだ演技をするよりも、その時々で生まれるものを大切にしたほうが観てくださる方の心にも刺さるんじゃないかと思って。そういう意味では、平良を演じていたというのとは少し違う感覚でした。
平良が何度聞き込みを繰り返しても、なかなか犯人にたどり着かない間は、「いったい、どんな人間なんだろう?」と気になり、撮影中ずっと阿久津のことを考えている自分がいました。
阿久津を演じる野田洋次郎さんは、ミュージシャンでもありますから、彼の曲をちょっと聴いてみたりとか(笑)。僕が出ていないシーンでも、台本を広げて、阿久津の思いや哀しみを少しでも理解しようとしていましたね。
今回の役に限らず、「これでいいのかなぁ」と僕はいつも現場でギリギリまで悩んでいます。役者という仕事は、いまだにぜんぜんわからずにいます。
仕事が楽しいなんて思ったことはまったくないですね。毎回、現場からはいっときも早く帰りたいですし(笑)。全部撮り終わって、その役から解放されたいのだと思います。だから、カットがかかって、監督から「OK」をもらうことがいちばんうれしい。
監督は、最初のお客さんでもありますから、悩んだ末に僕が出した答えを「それでいいよ」と受け止めてくださるとホッとする。撮影初日に、監督の「OK」の一言を聞けたら、それだけでその仕事の半分は終わったような気がするんです。