いくつになっても学ぶことができたら
一方僕は、50代半ばになりましたが、年齢の重ね方は難しいと感じるようになりました。今回のドラマの平良と同様、心身の変化はあるし、「疲れた」「もういいや」と感じることもありますよ。
視聴者のみなさんやスタッフの方も、過去の作品のなかの僕の印象、いつも走っていたりする若々しいイメージを抱いていらっしゃることがあるのですが、もうそんなに何度も全力疾走はできません(笑)。そんな僕を、周りの方々はどんなふうに見ているのだろう? と考えると、演じることがますます難しく感じてきて。
出演した作品が、観てくださった方の記憶に残るのは心からうれしいです。でも現実の僕、吉岡秀隆は、そこにはもういないという感じです。1回その役から解放されると、僕自身はもはや違う世界で生きているので、新しい作品に挑むときは毎回初心に戻っているんです。
だから、「吉岡さんはベテランですから」と言われることにものすごく抵抗感がある。だって、どんな役を演じる場合でも、僕にとっては初めての役なんですから。
今回、平良という役に出会ったのも初めてのこと。なのに、「ベテラン俳優だから」という目で見られてしまうと、「そうじゃないのになぁ」と悩んでしまう。僕が子役だったころに見守ってくださっていた50代、60代の先輩方のご苦労が、最近、身に沁みてわかるようになりました。年齢を重ねても決してラクになるわけではないけれど、新しい作品に出会うたびに、何かを学ぶことができたらいいですね。
今回のドラマに描かれた事件を通じて、人生折り返しの年齢に差しかかった平良も、仕事や家庭に対する自分の姿勢をかえりみて、人間として成長していきます。そんな平良がありのままの平良として、この作品を観てくださるみなさんに自然と受け入れられたらいいなと思っています。
WOWOW『連続ドラマW 夜の道標 —ある容疑者を巡る記録—』

1990年代を舞台に、日本の社会問題に切り込んだ慟哭の本格社会派ミステリー。芦沢央の小説を連続ドラマ化。9月14日より放送・配信。毎週日曜午後10時。全5話。第1話は無料放送。主演に吉岡秀隆、共演に野田洋次郎ほか
『夜の道標』著:芦沢央
実力派ミステリー作家・芦沢央が作家生活10周年記念として手がけ、第76回日本推理作家協会賞・長編および連作短編集部門を受賞した、話題のミステリー。
中公文庫 1012円(税込)
吉岡秀隆さんの記事が掲載されている『婦人公論』10月号は好評発売中!