シーンの積み重ねから生まれるリアリティ
今回の現場では、平良のバディの若き刑事・大矢を演じる高杉真宙くんにも大いに助けられました。僕自身にとってだけでなく、平良にとっても、大矢はとても大切な存在です。
警察という組織での立場をあきらめて、心が擦り切れてしまった平良が、若き日の自分が抱いていたような正義感や情熱を持っている大矢と出会い、バディを組んでともに事件を追うなかで救われていく。
大矢と二人の捜査の撮影のなかで、特に印象強く残っているのは、キムラ緑子さん演じる、阿久津の母親と対峙するシーンです。緑子さんは、以前から信頼している大好きな方ですが、まだカメラが回っていないリハーサルのときに、緑子さんの真に迫った演技に気圧されて真宙くんが尻もちをついてしまった。
尻もちをつくほどの迫力って、すごいですよね。緑子さんのことを、僕らは、尊敬の念を込めてラスボスと呼んでいたほどです(笑)。こうしたシーンの積み重ねで、だんだんと平良と大矢になっていくことができたと思います。
真宙くんとは初共演でしたが、本当にいい青年です。撮影中もずっとそばにいて、彼がデビューしたころの話を聞いたり、お互いの家族の話をしたり。そんなたわいのないおしゃべりをしながら台本を広げて、「このシーンはこうじゃないの?」と話し合っているときがとても大切な時間だったような気がします。
子役や若手のみなさん(波留役:小谷興会、桜介役:小林優仁、息子・孝則役:坂元愛登)も素晴らしかった。あからさまに自分からアピールはしないけれど、今の若い役者さんたちはみんな本当に一生懸命だと感じます。僕が彼らの年齢だったころは、もう少しいい加減だったと言いますか(笑)。
僕の場合は、役者という仕事の意味もよくわからなかったけれど、彼らは芯の部分が本当にしっかりしている。役者という仕事に対しても、生きることに対しても、今、自分がここにいる理由がはっきりしていて、きちんと地に足がついているという感じがします。