縦割りになってしまい、横の流れが全くない時代

――『火の鳥』は、玉三郎さん演出の新作歌舞伎。多くの国に攻め入り領土を拡張してきた大王だが、病に苦しみ永遠の力を持つ火の鳥を我が物としようとする。火の鳥を捕らえるよう命じられた2人の王子、ヤマヒコとウミヒコは、火の鳥が棲むとされる遥か彼方の国へ赴く、というあらすじだ。火の鳥を玉三郎さん、ヤマヒコを染五郎さんが演じた。オペラを中心に活躍する演出家・原純さんも参加した。

 『火の鳥』では、脚本を作る過程から染五郎君に加わってもらいました。「自分が演じるヤマヒコとして言いたいことが何かある?」と聞いたら、答えが返ってきました。例えば、火の鳥を捕まえに行く時に、邪魔をするものが何であるか、盗賊なのか他の何かなのかという話になったのですが、染五郎君はいろいろ調べて「動物同士なのでオオカミがいい」と提案してきたのです。脚本家らと相談してもらい、補綴を何度も繰り返して作り上げました。やはり、作っていく過程に参加することが、彼らにとってすごくいいことだと思います。

私が染五郎君の年齢の時代は高度成長期、よい時代でした。俳優座や劇団四季などから舞台監督や演出助手、美術家も来ていました。俳優さんも文学座や俳優座などいろいろなところから集まり、プロダクションとして幕を開けたりしたのです。

私も新派に行かせていただきました。そこでは素晴らしい先輩がすれ違い様に注意してくださったり、水谷八重子先生が直接いろいろ教えて下さったりしました。すごく幸せでした。あのような経験を重ねたことが、年齢がいってからの芝居作りの大きなやり方につながっていったのだと思うのです。

今、演劇のジャンルやスタッフワークが多くなったわりには、縦割りになってしまい、横の流れが全くない時代になったのではないかと懸念します。だからこそ、スタッフとも自由に話をして、責任を持って発言をして責任のある行動をしなければならないと考えます。染五郎君には「あなたが言ったことなのだから責任を持って、幕が開いた時にはお客さまの前できちんとやりなさい」と伝えました。

1970年代は垣根がなかった時代でした。今は、垣根があるというわけではないのですが、人間同士が会わなくなったような気がします。染五郎君とはメールや電話ではなく、直接会って話すようにしています。考えを言語化することはすごくいいことなのです。