今ベストなものを作って、公開日に向かうだけ
――2005年に始まったシネマ歌舞伎。玉三郎さんの当たり役として多くの人を魅了した『鷺娘』『ふるあめりかに袖はぬらさじ』『天守物語』『二人藤娘』『阿古屋』『京鹿子娘五人道成寺』『二人椀久』『廓文章 吉田屋』『桜姫東文章』などがシネマ歌舞伎化された。映像に残ることで、何十年後も見てほしいという気持ちはあるのだろうか。
「見てほしい」と果たして言えるかどうか、ちょっと分かりません。何十年後かに見てもらいたいという思いで作ったら、そういうものになってしまう。やはり今ベストなものを作って、公開日に向かうだけです。それが残るのか、残らないのか。何十年後に見てもらえるのか、もらえないのか。一時で終わるのか。資料を作っているわけではないので、そのようなことは考えたことはないのです。公開日に向けてベストのものを作ること、その時に見たお客様が楽しんでいただけることしか考えていません。
30年前に撮って今も残っている舞踊集などについては、あの時撮っておいてよかったと思うことは多々あります。しかし、それを何十年後かに見てもらいたいという気持ちは、聞かれれば「ない」です。昔の名優たちの写真が残っていて、それを見て勉強します。でも、彼らは何十年後かに見てもらおうと撮ったのでしょうか? その時にベストなものを撮ったから、後世に残ったのではないでしょうか。だから、何十年後かに見てもらうという意識は薄く、とにかく撮った材料を綺麗にして、皆様にお見せするということだけです。