私も「こういうもの」を提供できたらと

――昨年は『源氏物語 六条御息所の巻』、今年は『火の鳥』と新作歌舞伎を披露した。あと2つ温めているものがあるという。新しい芝居を作る時、玉三郎さんが心に秘めていることは……。

お客様の中に、何か「あっ、そうだったのか」という思いが残るか残らないか、です。ただ華やかならばいいとか、ただ残酷ならいいとか、ただライティングが派手だったらいいとかではなく、お客様に「あっ、なるほど」と感じていただけるかどうか、なのです。

私は若い時からお芝居が好きでたくさん見てきました。例えば、作家の有吉佐和子さん原作の『花岡青洲の妻』を見た時には、「人間ってこういうものなのだ」と腑に落ちました。『ふるあめりかに袖はぬらさじ』では、根本的なところは見る人の琴線に触れるように書いているけれど、舞台ではこのようになるのだと思ったものです。そのようなことをずっと考えてきました。だから私も、どこか「あっ」と思うところがあるお芝居をしたい。

有名な舞台デザイナーのボブ・クロウリーさんと一緒に仕事をしたことがあります。私は「あなたにとっていい芝居ってどういうものですか」と尋ねました。彼は「こういうものだ」「これがなかったら終わりだ」とおっしゃいました。私も「こういうもの」を提供できたらと思っています。

――「こういうもの」と2回語った時、玉三郎さんはそのたび片手を胸に当てた。

『源氏物語 六条御息所の巻』
(写真提供:松竹株式会社)
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源氏物語 六条御息所の巻

作品概要 上演月:2024(令和6)年10月 上演劇場:歌舞伎座 シネマ歌舞伎公開日:2025(令和7)年9月26日 上映時間:87分

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▼作品ページ https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/2803/