アンパンマンを描き始めた動機

「食べる」ということへの思いが、ずっとあったということですか。

─―僕は兵隊として向こうへ行き、一晩じゅう眠れなかったり、泥の中を転げまわったりと、いろいろなひどい目にあったんですが、それらは横になって寝ていれば、なんとか回復してくるんですよ。

ところが、空腹というのだけはダメなんですね。我慢できない。年をとってくると、まあそこまでではないけれど、若い時の空腹というのは、ぜんぜん我慢ができないんです。飢えるってことが一番つらいことなんだと、その時、身にしみて体験しました。

ですから、もし正義の味方だったならば、最初にやらなくちゃいけないことは、飢える人を助けることじゃないかと思ったんです。それがずっと自分の気持ちの中にあって、戦争から帰ってくると、いろいろなヒーローが僕の頭の中を飛びまわっていました。

ヒーローは悪い奴をやっつけるけど、ひもじい人を助けるというのはないんだよね。だから自分が物語を描くんなら、ひもじい人を助けるヒーローをつくろうと思っていたんです。それがアンパンマンを描き始めた動機なんですね。

 

※本稿は『何のために生まれてきたの?』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。

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何のために生まれてきたの?』(著:やなせたかし/PHP文庫)

2025年春のNHK連続テレビ小説「あんぱん」のモデルである、
『アンパンマン』作者のやなせたかし氏。

大反響を呼んだNHK「100年インタビュー」のやなせたかし氏の回を書籍化。
苦しい時もユーモアと好奇心を忘れなかった著者が、半生を振り返りつつ前向きに生きる秘訣を語ります。波瀾の人生を乗り越えて綴った、痛快人生論は、読むだけで元気が出ます。