弱ってくると、他の生き物の餌に――弱肉強食の極致

先ほど記した通り、水族館の生き物の餌は、“基本的”には最初から餌として仕入れられる。なぜこんなに回りくどい言い方をするのかというと、場合によっては展示生物自体が、餌として転用されることがあるからだ。

例えば、クラゲの中には、他のクラゲを襲って食うものも多い。当然、そんなクラゲ食のクラゲを飼育するのに最適な餌はクラゲということになり、特に数多く飼育・繁殖できるミズクラゲがその犠牲者となりやすい。

ある時、加茂水族館の直径5メートルの大水槽の上で、館長が、通過するミズクラゲを柄杓で掬ってより分けているのを目にした。なんでも、命を無駄にしないため、形の悪くなってしまった個体を選んで、他のクラゲの餌とするのだとか。……いや、確かにこれも、水族館のシビアな現実なんだけど、それ以前に、なんであんたは高速で通過するクラゲの形の良し悪しが肉眼で分かるんだ! とツッコんでしまった(笑)。

巨大クライゼル水槽(加茂水族館)(写真:『水族館のひみつ-海洋生物学者が教える水族館のきらめき』より)

その他にも、例えば死んだ魚は、カニやヒトデ、オオグソクムシたちの良い餌になる。こうした海の“死体解体業者”は「スカベンジャー」と呼ばれ、自然界でも海底に沈んだ魚の死骸を綺麗に食べてくれるのだ。水槽に死んだ魚が落ちていたときも、いきなりスタッフに言うのではなく、ぐっとこらえて観察してみよう。カニやヒトデなんかが群がっていたら、餌として意図的に残されている可能性もあるからだ。

余談になるが、先ほどから述べているように、水族館は生きた生物を活餌として与えたり、瀕死または死亡した生き物を他の生物の餌としたりすることが多い。これを「残酷だ」などという輩とは、筆者は正直、口もききたくない。

そもそも人間が食う肉や魚だって、どこかで命を奪わなければならない。じゃ、完全なヴィーガンならいいかと言えば、野菜や果物だって食われる時点である意味、命を失っている(だって、種はそのまま食うか、ゴミ箱に捨てているでしょ? あれも命の一つだよ)。自然の摂理を知ることこそ、捕食者の責任であるならば、それをまざまざと見せてくれる水族館は、実にありがたい存在ではないか。