眉間に皺を寄せている方が簡単

大森監督には「永瀬くんは本番直前までふざけている」と笑われています(笑)。映画の現場では、ただでさえ大変な作業をみんながしている。眉間に皺を寄せて張り詰めた雰囲気を出す方が簡単。笑顔でいるほうが難しい。集まっている方はみんなプロですし、当然各カットの撮影にかける思いは毎回真剣です。僕も十二分に分かっている。そういった現場で、少しの間、例えばセットからセットの移動ですとか、休憩の時は笑顔でふざけていたいんです。

若い頃の僕は自分の芝居だけでいっぱいいっぱいでした。役柄を家まで持って帰っちゃうようなところもありました。でも、30代になって様々な経験をし、素晴らしい俳優やスタッフの皆さんに出会ったりして、ああ、みんなで作ってるんだなって、気づいていったんです。それから現場の雰囲気作りにも目がいくようになりました。僕としては、個人的にぎっちぎちに固めた芝居だと監督の要望や共演者との化学反応も起きにくくなると思っているんです。

いつからそうなったのかと振り返ってみると、『私立探偵 濱マイク』という映画から始まったテレビシリーズは1つのきっかけだったかもしれません。撮影当時、僕以外、映画とテレビの現場を繋いでいる人間がほぼいなくて、撮影が終わると次の撮影のチームが台本の準備稿をもって質問をしにくるんですよ(笑)。それを真剣に考えているといつの間にか朝になっている…という毎日。出演者ですが、半分スタッフという気持ちが芽生えました。監督も出演者もテレビ1話分ごとに入れ替わっていく特殊な環境だったので、関わってくださった方みんなに「濱マイクの現場は楽しかった」と思ってほしいと動いていました。

この作品は観ていただく方に、ある意味楽しさを届けたかったから。いろんな種をTV画面の向こうに撒きたかったんです。撮影中は制作部さんと一緒にお弁当の注文にも頭を悩ませたりもして(笑)。1食が360円の予算の中で、ふりかけをつけるかお味噌汁をつけるか…今日は寒いから味噌汁か!とか。でもそれが楽しかったのを覚えています。その後どの現場でも若い人が、映画の現場に夢を持って飛び込んで来てくれて、辛すぎて去っていく、ということだけは避けたいんです。「またやりたい」と続けて欲しいんです。